ジャンヌーベルがTNプローブで篠原一男と対談した時、篠原はヌーベルの劇場壁面を見ながら装飾だと言って称揚した。今年の1月の新建築で伊東豊雄は装飾の力を強調した。二人の建築家が言う装飾とは何か?広辞苑では「美しくよそおいかざること。また、そのかざり、よそおい。かざりつけ。」であるが、二人の建築家の指すものはもう少し限定された意味である。
建築の世界で装飾というとき最初に無意識に引用されている文脈はアドルフ・ロースの『装飾と犯罪』である。そしてそれは当然のことながらネガティヴなことばなのである。またそれはモダニズムの本質の一つである抽象という概念の対立軸の逆側におかれたものとして語られる。その時この言葉には具象という意味合いが色濃く付着してくるのである。
つまり、ある部分を捨て、エッセンスだけを表そうとする態度に代わり、捨てることなく、全体を像を具えて表そうという態度が抽象の対語としての具象である。それはもう少し建築に引き寄せて語るなら、モダニズム期に抽象と言って捨象した様々なものをもう一度具えることに他ならない。
しかし注意すべきはそうした試みは建築のポストモダニズム期に(モダニズム期に捨象された)物語の復活として歴史様式を付加した建築が沢山作られるかたちで行われ、結局何も語りえず終わったと言う事実である。
当然ここで彼らが具えるべきとしている像はこうした失われた物語としての歴史様式ではなくもっと人間に本質的な像なのだと思う。そうした新たな像が人々に何かを語るということが今可能性を持ち始めているのである。その語る内容とは何か?そしてその語り口とは?
I 建築は意味を伝えるか
1)ビルディングタイプの誕生
a, 前近代
b, 近代
2)モダニズム以降の意味論の系譜
a, ジェンクス
b, ヴェンチューリ
c, 井上充夫
II 装飾は犯罪である
III いわゆるポストモダン建築
—石井和紘の場合
IV 象徴へ
—篠原一男に見る
V 象徴からの逃走
1)坂本のずれ
2)伊東のエフェメラル
3)浮遊する形
VI あるいは抽象から具象へ
1)装飾性
2)川内倫子の抽象化された生
《参考文献》
[A]…講義の理解を深めるために是非一読を(入手も容易)。
[B]…講義の内容を発展的に拡張して理解したい人向け。
[C]…やや専門的だが、面白い本。
[D]…やや専門的かつ入手困難だが、それだけに興味のある方は是非。
- 坂本一成・多木浩二、1996『対話、建築の思考』、住まいの図書館出版局 [A]
● 難解な坂本建築を多木氏が明快に解きほぐす。
- 篠原一男、1970『続住宅論』、鹿島出版会 [B]
● 篠原建築のエッセンス。
- チャールズ・ジェンクス(Charles Jencks)、1978(1978)「ポストモダニズムの建築言語」 『a+u』 1978年10月臨時増刊号、エーアンドユー [B]
● ポストモダニズムという言葉を定着させた、記念すべき書。
- ロバート・ヴェンチューリ(Robert Venturri)、1972(1978)『ラスベガス』(伊藤公文他訳)、鹿島出版会 [A]
● いわゆるポストモダニズムの理論的火付け役となった古典的名著。
- Nikolaus Pevsner, 1976 “A History of Building Types”, The National Gallery of Art [A]
● ビルディングタイプを扱った古典的名著。
- 五十嵐太郎+大川信行、2002 『ビルディングタイプの解剖学』、王国社 [B]
● 上記名著に対抗して登場。
- 井上充夫、1991『建築美論のあゆみ』、鹿島出版会 [B]
● 日本人による建築美学の概説書として分かりやすい。
- エルヴィン・パノフスキー(Erwin Panofsky)、2002(1962)『イコノロジー研究 上・下』(浅野徹他訳)、ちくま学芸文庫 [B]
● パノフスキーの代表的著作。
- 小田部胤久、1995 『象徴の美学』 東京大学出版会 [C]
● ドイツ観念論における、象徴概念の推移が緻密な読みで遡行される。
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